「話を聞かないのが、あなたを大事にすることです」。蜂の巣駆除の途中で入居者に強く言った日
昼過ぎ、電話が鳴った。
「蜂の巣があります」
うちが管理している建物の1つ、その1Cの入居者さんからだった。この人からの蜂の連絡は、今年に入って3回目だ。
今年は、蜂の当たり年
今年は蜂の巣が本当に多い。
うちの建物だけの話ではない。ちょくちょくどの物件でも巣ができる。蜂の巣ができること自体は、建物のせいではないと思う。どの建物でも起こり得る話だ。仕方がない。
でも、入居者の人に何かあってはいけない。刺されたら大変だ。だから連絡をもらったら、駆除に行く。
駆除といっても、そんなに難しいものではない。あまりにも大きな巣で蜂がブンブン飛んでいたら、それは安全策を取らないといけない。でも蜂が数匹飛んでいる程度なら、自分でやってしまった方がいい。
理由は後で書く。まずはその日の話をさせてほしい。
電話から15分後、現場に着いた
電話をもらってから15分後、現場に着いた。
1Cさんから聞いていた場所は、自転車置き場だった。
ところが、着いてみても見つからない。自転車の陰、タイヤの近く。目を凝らしても、それらしい巣が見当たらないのだ。
「蜂もやるな」
そう思った。目立たないところに作るのが上手いのかもしれない。
とりあえず自転車の巣は一旦置いておいて、建物の周りを見て回った。すると、3階の軒下にもう1つ巣があるのを見つけた。
こちらの方が発見が早かったので、先に3階の巣から駆除することにした。

網戸越しに、シュート
3階の巣は、蜂が3〜4匹。規模としては小さい方だ。
助かったのは、その巣が室内側から網戸越しに射程に入る位置にあったこと。ベランダに出ずに、部屋の中から網戸越しに蜂駆除スプレーをかけられた。
蜂駆除スプレーは、10メートル先まで薬剤が届くタイプを使っている。遠くから一気にかけて、その場を離れる。近づかない。これが基本だ。
薬剤が届く距離が長ければ長いほど、こちらが刺されるリスクが下がる。1,000円〜1,500円で買える道具で、これだけ距離を取れる。ありがたい。
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「ここです」と指さしてくれた人
3階の巣を駆除していると、1Cさんが下から出てきた。
「ここです」
そう言って、自転車の巣を指さしてくれた。
私が下で探して見つけられなかった巣を、この人が教えてくれた。連絡をくれた人であり、現場で場所を教えてくれた人でもある。この日、1Cさんは完全に味方だった。
正直、こうやって「見つかりましたか?」と気にして出てきてくれる入居者さんがいると、駆除の作業もずっとやりやすい。
自転車の巣も、3階の巣と同じくらいの規模。蜂は3〜4匹。10メートル噴射のスプレーで距離を取って、こちらも駆除できた。

出てきたのは、もう一人
問題は、その次だ。
作業音を聞きつけて、別の入居者さんが出てきた。1Dさんとしよう。この人とは、もう15年の付き合いになる。
「蜂の巣があります。危ないので、中にいてください」
私はそう伝えた。
でも1Dさんは、こう言った。
「いや、俺は見てもないけどな」
ごまかしながら、自分の話を聞いてほしそうな雰囲気を出してくる。
長く付き合っているから、この人のパターンはわかっている。小さいこと、なんでもないことを1つ2つ先に出してから、本当に言いたいことを後に持ってくる。いつもそうだ。
案の定、玄関のチェーンを見せられた。
「ちょっと、これ短いような気がしてね」
これが「小さいこと」の1つ目だった。本命はまだ先にある。話を続ければ、30分から1時間は拘束される。
「話を聞かない」ことが、大事にすること
私にとって入居者は、家族のようなものだ。
だからこそ、今日は話を聞けないと思った。
外にはまだ蜂が数匹飛んでいる。すでに2箇所の巣を駆除した直後だ。落ち着いてはいるが、この状況で1Dさんを引き留めて長話に付き合わせるのは、危ない。
その30分〜1時間の間に、1Dさんが刺されたら?
私が話を聞き続けることが、目の前の人を危険にさらすことになる。それは順番が違う。
「蜂が危ないので、いったん行ってください」
少し強めに、そう言った。
1Dさんはしばらく玄関先で何か言っていたが、その後、買い物に出かけた。私はその隙に、帰った。
本命の話は、聞かずじまいだ。今度会った時に聞けばいい。
業者に頼むと、いくらするのか
蜂の巣駆除は、業者に頼むこともできる。
ただ、この業界は相場が曖昧だ。私の認識だと、小さい巣1つでも15,000円くらい取られることが多い。中には、それ以上を提示してくるところもある。ぼったくりに近い金額を見たこともある。
一方、私が使っている蜂駆除スプレーは、薬局やホームセンターで1,000円〜1,500円で買える。10メートル先まで届く強いタイプでも、この価格帯だ。
業者に頼めば15,000円。自分でやれば1,500円。約10倍の差がある。

もちろん、巣が大きくてブンブン飛んでいる状態なら、無理せず業者に頼んだ方がいい。刺されるのが一番怖い。
もう1つ。蜂に刺された時のアレルギー反応は、人によって出方がまったく違う。命に関わることもある。自分の体質に不安がある人は、金額の話は横に置いて、迷わず業者に頼んだ方がいい。
でも数匹程度の巣で、届く距離を取れて、体質にも心配がないなら、自分でやってしまった方が現実的だ。
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この日、覚えておきたいこと
この日の現場には、2人の入居者さんが出てきた。
1人は、連絡をくれて、巣の場所を指さしてくれた人。
もう1人は、私を引き留めて、長い話を始めようとした人。
どちらもうちの入居者さんで、どちらも大事な人だ。だから片方に「話を聞かない」と決めるのは、正直、気持ちのいいものではない。
でも「大事に思うこと」と「今、話を聞くこと」は、いつも同じ方向に進むわけではない。
今日は、話を聞かないのが正解だった。

蜂の巣を駆除している最中に、玄関のチェーンの話を30分聞く。文字にすれば「なんでそこで聞いてしまうんだ」と思うかもしれない。でも15年の付き合いがある入居者さんに「今は無理です」と言うのは、現場では思うより重たい。
それでも、その日は言った方がよかった。話を聞くことと、その人を大事にすることは、いつも同じ方向に進むわけではない。危険が去るまで、話は預ける。それでいい。
※ この記事は筆者の実体験をもとにしたものです。特定を避けるため、一部の情報を変更しています。状況によって対応は異なります。蜂の巣駆除に関するご判断は、巣の規模やご自身の体質を踏まえたうえで、必要に応じて専門業者にご相談ください。


























