入居者の安否確認、警察に「押し入れも見てもらえますか」と言われた日
「もう死ぬ」。そういう電話があった日の話をする。
ある日、ある入居者の緊急連絡先になっている人から、連絡が入った。その入居者が「もう死ぬ」と言っている。それきり、連絡が取れない。大家さん、見てきてもらえませんか。そういう依頼だった。
鍵は、私が持っている。すぐにでも、見に行ける。でも、私はすぐには動かなかった。一人で部屋に入ることだけは、しなかった。
理由がある。以前、大家が集まって話を聞く機会があった。福岡のほうで、管理会社を大きくやっている方だったと思う。その人が、こう言っていた。安否確認で第一発見者になると、警察に1日拘束されることがある、と。
考えてみれば、当然かもしれない。私はその入居者と知り合いで、鍵を持っている。連絡が取れないからと、自分で鍵を開けて入る。もし中で亡くなっていたら、第一発見者は私だ。一番、疑われる立場になる。
この話が、ずっと印象に残っていた。だから、安否確認のときは、必ず警察を呼ぶ。これは今も、徹底している。
そのときも、まず警察に連絡した。そして、そのまま伝えた。緊急連絡先の人から連絡があったこと。入居者が「もう死ぬ」と言って、連絡が取れないこと。見てきてほしいと頼まれたこと。
警察は、こう言った。緊急かもしれないので、鍵を持っているなら、このまま電話をつないだまま入ってください。
電話をつないだまま、部屋に向かった。
一つ、気になっていたことがある。その人の自転車が、なかった。いつもの場所に、ない。だから、出かけているんじゃないか、いないよな、という気持ちもあった。でも、もしかしたら、という気持ちもある。念のため、見ないといけない。その両方を抱えたまま、ドアの前に立った。
一番怖かったのは、やはり、中で人が死んでいるんじゃないか、ということだった。
恐る恐る、ドアを開ける。電話の向こうには、警察がいる。
お風呂場を見る。いない。キッチンを見る。いない。トイレを見る。いない。そして、奥の居室を開けた。
誰も、いなかった。
よかったです。思わず、そう口に出した。電話の向こうの警察も、よかったですね、と言ってくれた。
ほっとした。これで終わりだ、と思った。その時だった。警察が、こう言った。
すみませんが、念のため、押し入れも見てもらえますか。
その一言で、すごく、恐怖を感じた。
さっきまでの安心が、一気に、緊張に変わった。居室に誰もいなくて、もう大丈夫だと思っていた。でも、言われてみれば、押し入れは、まだ開けていない。もし、そこにいたら。そう考えると、手が止まりそうになる。
恐る恐る、押し入れを開けた。
いなかった。
結局、その入居者は、普通に帰ってきた。警察が4人も5人も、部屋の中にいる。そこへ本人が、何ですか、という顔で、玄関に立っていた。とぼけている、というより、本当に何が起きているのか分かっていない様子だった。
コインランドリーに、行っていただけだった。
拍子抜けした。あれだけの緊張は、何だったのか。でも、無事だったのだから、それでいい。
この件で、特別な教訓を得たわけではない。緊急連絡先の人から急に連絡が来て、鍵を持って向かった。ただ、それだけのことだ。
強いて言うなら、二つある。
一つは、安否確認では、知り合いでも、鍵を持っていても、自分一人では入らないこと。必ず警察を呼ぶ。第一発見者のリスクがあるからだ。これは今も、守っている。
もう一つは、もういないだろう、と思っても、最後まで確認すること。自転車がなくて、居室にも誰もいなくて、もう大丈夫だと思った。それでも、押し入れの中までは、見ていなかった。押し入れも、あり得るのか。あのとき、警察に言われて、初めてそう思った。
安否確認なんて、めったに起きるものではない。でも、いざ起きたときのために、やり方だけ書いておく。
難しいことはない。入居者と連絡が取れず、もしものことが心配なときは、自分で部屋に入らず、まず警察に連絡する。「安否確認をお願いします」と言えばいい。そうすれば、警察が現地に来て、中を確認してくれる。部屋の鍵は必要なので、大家は鍵を持って立ち会う。
私のときは「緊急かもしれないので、電話をつないだまま入ってください」と言われた。でもこれは、急ぎだと判断されたからだと思う。基本は、警察を呼んで、一緒に入る。自分一人では入らない。

それだけ守っておけば、いざというとき、慌てずに済む。私の場合は、こうだった。

























