防水工事で200万・330万・540万——選んだのは「一番安い業者」じゃなかった

200万の業者が良かった。説明も丁寧だったし、対応も誠実だった。
でも、選んだのは330万の業者だ。
理由は「知り合いだから」。それだけだ。決めたのは私じゃない。建物の持ち主——親だ。
これが相続大家のリアルだ。全部自分で調べて、3社に見積もりを取って、比較して、一番良いと思う業者を見つけた。なのに、130万円の差が「人付き合い」でひっくり返る。
今回は、防水工事の相見積もりで見えた「業者選び」の話をする。教科書には載っていない方の話だ。
きっかけは、飛び込み営業だった
ある日、見知らぬ業者がやってきた。
「近所で防水工事をやっているんですが、お宅の建物、防水やった方がいいんじゃないですかね」
今聞いても怪しい。普通なら門前払いだ。
でも、タイミングが悪かった。ちょうど2階のベランダの天井で雨漏りが起きていて、石膏ボードが崩れかけていた。補修はしたが、水は入り続けている。築20年。防水をやらなきゃいけないのはわかっていた。
「まぁ、見てもらうだけなら」——そう思って、見積もりをお願いした。
3社に見積もりを取ったら、倍以上の差が出た
1社だけで決めるのは怖い。だから3社に声をかけた。
飛び込みの業者。大手の防水会社。親の知り合いの業者。
出てきた金額がこれだ。
| 業者 | 見積もり金額 |
|---|---|
| 飛び込み営業の業者 | 200万円 |
| 親の知り合いの業者 | 330万円 |
| 大手防水会社 | 540万円 |
同じ建物の、同じ範囲の防水工事で、340万円の差。
正直に言うと、見積もりの内容を比較して「ここが違うからこの差額になる」とは判断できなかった。素人にはわからない。ただ、一番高い540万の大手については、ひとつ明確にわかったことがある。大手は自社で施工しない。下請けに出す。つまり看板代と管理費が乗っている。
一番安い業者が、一番まともだった
200万の飛び込み業者。「安すぎて怪しい」と思うかもしれない。
でもこの業者は、工事の範囲、使う材料、工程のスケジュール、全部きちんと説明してくれた。質問にも丁寧に答えてくれた。
私はこの業者が好きだった。
飛び込み営業だから怪しい——とは限らない。
「知り合いだから」
でも、選んだのは330万の業者だ。
繰り返すが、私が決めたわけじゃない。この建物は親の持ち物だ。見積もりを取ったのも、業者とやり取りしたのも全部私だけど、決めるのは持ち主だ。
親の決め手は「知り合いだから」。
200万の方がいいのに——そう思った。でも、持ち主には勝てない。
相見積もりを取って、比較して、合理的に判断する。それが教科書の答えだ。でも実際は、人付き合いで決まることがある。130万円の差をひっくり返すくらいの力が、「知り合い」にはある。
結果的に、330万の業者は悪くなかった
フォローしておくと、330万の業者さんの仕事はちゃんとしていた。知識面も技術面も安心感があって、気になっていた雨漏りもきちんと解決した。
ただ、「200万の業者でも同じ結果だったかもしれない」という気持ちは、正直残っている。それを確かめる方法はないのだけれど。
そしてこの330万の業者には、もうひとつ印象的なエピソードがある。
同じ頃、別の物件でも防水工事が必要になった。見積もりを頼んだところ、事前に別の業者から取っていた金額を伝えたら、こう言われた。
「うちの方が高くなると思うので、その業者さんにお願いした方がいいですよ」
見積もりすら出さずに、正直に「うちじゃない方がいい」と教えてくれた。こういう誠実さがあるから、多少高くても頼みたくなる。人付き合いで選ばれた業者が、結果的に信頼できる業者だった——そういうことも、あるのだ。
相見積もりの「もうひとつの問題」
ここまで読んで、「とにかく3社比較すればいい」と思うかもしれない。でも相見積もりには、もっと厄介な問題がある。
以前、業務用エアコンの見積もりを取ったときの話だ。
1社目に金額をもらった。2社目に依頼した。相場感がわからないから勉強したい。だから1社目の金額は伏せて、「そのままの値段を教えてほしい」と伝えた。
すると電話がかかってきた。
「金額を教えてもらえませんか? それより安くしますので」
いや、そのままの金額をお願いします。
またしばらくして電話が来た。
「やっぱり教えていただけませんか? それより安く出せると思うので」
粘り強い。でも、こちらの意図は汲んでくれない。結局、根負けして金額を伝えた。
返ってきた答えがこれだ。
「うちは、それより安くできません」
……最初からそう言ってくれればいいのに。
他社の金額を伝えれば、それに合わせた見積もりが出てくる。伝えなければ、何度も電話がかかってくる。どちらにしても「本当の値段」がわからなくなる。
相見積もりは比較のための手段だ。でもその手段自体が、比較を歪ませる。大家が修繕で悩むのは、工事の中身だけじゃない。「この金額は本当なのか」——その疑いと、ずっと付き合い続けることになる。
この経験から思うこと
相見積もりは大家業の基本だと言われる。3社取れ。比較しろ。安いところに頼め。
でも実際にやってみると、そんな単純な話じゃない。
一番安い業者がまともとは限らない。でも今回は一番まともだった。一番高い業者が一番いいとも限らない。そして、自分が選んだ業者に決まるとも限らない。
結局のところ、大事なのは「正解を選ぶ」ことより「納得して選ぶ」ことなのかもしれない。金額、説明の丁寧さ、対応の誠実さ、そして人間関係。全部を天秤に乗せて、自分なりに「これでいい」と思える選択をする。
私は今でも、200万の業者が気になっている。次の工事があったら、今度は自分で決めたいと思っている。
モンスターカード No.005「見積もりの魔人」
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | コスト魔人 |
| 被害 | 同じ工事で200万〜540万の見積もり差 |
| 原因 | 業者ごとの利益構造の違い/大手の中間マージン |
| 解決 | 3社相見積もり+総合判断で330万の業者に依頼 |
| 教訓 | 相見積もりは3社で相場感を掴む/金額だけで判断しない/「本当の値段」は見えにくいと知っておく |
※ この記事は筆者の実体験をもとにしたものです。特定を避けるため、一部の情報を変更しています。状況によって対応は異なります。工事の判断は専門家にご相談ください。
