仲介店のドアの前に立つ。部屋の情報を持って、「ここの募集お願いします」と頼む。それだけのことだ。

それだけのことが、できない。

人と話すのが苦手だ。自分を売り込むのが苦手だ。相手が忙しそうだと「今じゃないかも」と思って帰りたくなる。帰ってきた後はどっと疲れる。大家業は一人でできる仕事だと思っていた。でも入居者の募集だけは、どうしても人と関わらないといけない。

今、空室が3部屋ある。


3部屋が、同時に空いた

ちょっと前まで満室だった。それが気づけば3部屋空いている。

1部屋は以前記事にした、あの「うんこ事件」の部屋。リフォームは済んでいる。もう1部屋は法人が社宅として借りていたが、外国の社員さんが国の事情で帰国することになり、半年で撤退した。こちらはクリーニング済み。

そしてもう1部屋は、既存の入居者からの紹介で高齢の方が「住んでもいいかな」と話が来ている。ただ、申込書を渡してから2週間が経っている。ちょっと怪しい。

事件の部屋はともかく、法人の撤退も、紹介の話が宙に浮いていることも、自分ではコントロールできない。空室は、いつも突然やってくる。


正直に言う。「ここじゃないといけない理由」がない

私の物件は古い。リフォームはしている。お風呂もきれいにした。でも、いろんな部屋を見てきた自分の目から見ると、「昔の部屋をリフォームした、それだけの部屋」だ。

他の大家さんに会うと、みんな自分の部屋を自慢する。「うちはちゃんとリフォームしてるし、設備もいいでしょ?」と。気持ちはわかる。でも私から見ると、それも同じだ。古い部屋をきれいにした、それだけ。

新しい部屋を借りた方がいい。冷静に考えれば、そうだ。

自分の物件に「ここじゃないといけない理由」が見つからない。それを知りながら、仲介店に「お願いします」と言いに行く。これがどれだけ気が重いか、わかるだろうか。


家賃を下げれば埋まる。でも、その先が見えている

家賃は4万円から5万円。周辺の同条件の物件だけでなく、新しめの物件も含めて全体の相場感を見た上で決めた。

もっと安くすれば入居者は来るだろう。でも、10年やってきて気づいたことがある。

同じ建物の中でも、家賃が安い部屋の入居者ほど意見を言ってくる割合が高い。クレームだったり、要望だったり、たまたま会ったときに「今言わなきゃ」とばかりにバーッと話してくる。ゴミの出し方、隣がうるさい、設備がどうの。どれも、聞いたところでどうすることもできない話だ。

私は基本的に全部聞く。ちゃんとうなずいて、理解しようとする。でも急いでいるときに話が終わらなくて困ることも、正直たくさんある。

家賃を下げて空室を埋めるのは簡単だ。でもその先に「管理が大変になるだけ」という未来が見える。だから安易には下げない。


直接連絡してくる人には、理由がある

たまに、仲介店を通さずに直接連絡してくる人がいる。「部屋空いてますか?」と。

昔ながらの探し方なのかもしれない。でも正直に言えば、こういう人は怪しいことが多い。

今の時代、普通はネットで調べて仲介店に行く。そのルートを通らずに直接大家に来るということは、仲介店で断られた人なんじゃないか。そう思ってしまう。偏見かもしれない。でも10年やってきた肌感覚として、用心はしている。


苦手なことは、いくらやっても苦手なままだった

大家歴10年。相続した物件を、ずっと自主管理でやってきた。

10年やれば慣れるかと思っていた。仲介店に行くのも、トラブルの対応も、入居者とのやり取りも。数をこなせば、いつか平気になるはずだと。

慣れなかった。

人付き合いが苦手。急な対応が苦手。営業が苦手。10年前と何も変わっていない。やれば疲れるし、終わった後はぐったりする。それだけは、10年経っても同じだ。

ずっと「苦手でも自分でやるのが大家の仕事だ」と思ってきた。自主管理こそが正しいと。でもそれは、ただの意地だったのかもしれない。


10年かかって、出した答え

管理会社を入れることにした。これから探すところだ。

苦手なところは人に任せる。募集も、トラブル対応も、入居者とのやり取りも。自分にしかできないことに集中する。物件の方向性、修繕の判断、お金の管理。これは誰にも任せられない。

大家の仕事は「全部自分でやる」ことではない。「物件全体をうまく回す」ことだ。

10年かかって、やっとその結論にたどり着いた。遅いかもしれない。でも、たどり着けてよかったと思っている。


モンスターカード No.006「空室の亡霊」

項目内容
分類コスト魔人
被害3部屋同時空室/家賃収入ゼロの期間
原因入居者トラブル・法人撤退・紹介不成立
対策管理会社の導入を検討中
教訓苦手は任せる/家賃は安易に下げない/空室への事前準備

空室は、派手なトラブルと違って誰にも同情されない。ただ毎月、入ってくるはずだった家賃が入ってこない。それだけのことが、こんなに重い。

でもこの記事を書きながら、10年目にして「人に頼る」という判断ができたのは、自分の中では大きな一歩だと思っている。苦手なことを認めるのに、10年かかった。長かったけど、まぁ、それが私のペースだ。


※ この記事は筆者の実体験をもとにしたものです。特定を避けるため、一部の情報を変更しています。状況によって対応は異なります。物件の管理方針は専門家にご相談ください。

ABOUT ME
大家のタロウ
はじめまして、大家のタロウです。 相続でひょんなことから大家になって、もう10年が経ちました。最初は右も左もわからないまま、ずっと手探りでやってきました。 失敗も、焦りも、「え、こんなことが起きるの?」って出来事も、たくさん経験してきたので、せっかくだから記録しておこうと思ってこのブログを始めました。 難しいことは書けませんが、同じように悩んでいる大家さんの「あるある」や「参考」になれたら嬉しいです。よろしくお願いします。