引き継いだ時、建物の記憶がなかった。AppSheetで全部記録する
引き継いだとき、この建物には「記憶」がなかった。
大規模修繕の記録はある。でも、細かい修繕の記録がない。いつ、どこを、いくらで直したのか。それがわからないまま、私は大家になった。
たとえば、ある設備が壊れる。過去にも同じ場所を直しているかもしれない。でも、記録がないからわからない。前にいくらかかったのか、目安もない。だから毎回、ゼロからの作業になる。完全に新しい仕事を、何度もやり直しているような感覚だった。
業者を呼ぶたびに、同じ説明を一から繰り返す。「ここの配管は前にどうなってましたか」と聞かれても、答えられない。記録がないというのは、こういうことだ。毎回、過去の自分にも、前の代の大家にも、相談できないまま判断する。
これは、ほんとに良くない。そう思って、私は記録を取り始めた。使ったのが、AppSheet というツールだ。スマホで使える、自分専用のアプリを作れるサービスだと思ってもらえばいい。
「猿でもわかる」を目標にした
記録を始めるとき、私には一つの目標があった。
将来、私がいきなり亡くなっても、誰かがそのまま引き継げる。そういう仕組みを作ること。
大家業は、いつ何があるかわからない。私が突然いなくなったら、残された人は、また私と同じ苦労をする。記憶のない建物を、ゼロから手探りで管理することになる。私がそうだったように。
それは避けたい。だから目標は「猿でもわかる」だ。専門知識がなくても、誰でも使える。引き継いだその日から使える。そういうものを作ろうと決めた。
大家業は、属人化しやすい。私の頭の中にしか情報がない状態は、いつか必ず誰かを困らせる。私が10年かけて覚えたことを、次の人がまた10年かけて覚え直す。それは、あまりにもったいない。記録さえあれば、そのスタートラインを引き上げられる。
スプレッドシートでは、満たせなかった
最初は、スプレッドシートで管理しようとした。表計算のソフトだ。
でも、すぐに気づいた。スプレッドシートは、計算式の使い方がわからない人にとっては、全くわからないものになる。
私が作り込めば作り込むほど、複雑になる。関数が入り、シートが増える。私にはわかっても、他の人には呪文のように見えるだろう。
それでは「猿でもわかる」にならない。引き継いだ人が「これ、どうやって使うんだ」と固まってしまう。せっかく記録しても、使えなければ意味がない。スプレッドシートは、私の目標には合わなかった。

AppSheet を選んだ理由
そこで行き着いたのが、AppSheet だった。
一番よかったのは、スマホでアプリのように開けることだ。iPhoneでもiPadでもパソコンでも、同じように使える。現場でスマホを開けば、その場で入力できる。
入力のしやすさが、ぐっと上がった。記録というのは、手間がかかると続かない。あとで入力しようと思って、結局忘れる。これを何度も繰り返してきた。簡単にその場で入力できることが、何より大事だった。
それに、見た目がアプリそのものだ。スプレッドシートのように、セルがびっしり並んでいるわけではない。ボタンを押して、項目を選んで、入力する。これなら、表計算が苦手な人でも触れる。「猿でもわかる」に、一歩近づいた。
今、何を全部管理しているか
今、私はこの仕組みで、かなりのものを管理している。
入居者の情報。契約の情報。修繕の履歴。業者の連絡先。家賃の入金。物件ごとの設備リスト。写真や図面。さらに、水道代の請求書作成と、水道メーターの記録まで。
建物に関わることを、ひとつのところに集めている。何かあれば、まずここを見る。それだけで、過去の経緯がわかるようにした。あの設備は3年前に直した、あの業者にはこの件で世話になった。そういうことが、すぐに引き出せる。
特に助かるのが、修繕の履歴だ。同じ箇所が再び壊れたとき、過去にいくらで、どの業者が、どう直したかがすぐわかる。見積もりが妥当かどうかも判断できる。記録があるだけで、こんなに違うのかと思う。
水道メーターまで記録する意味
水道メーターの記録なんて、細かすぎると思うかもしれない。
でも、こういう細かい記録の積み重ねが、「建物の記憶」になる。いつ、何が、どうだったのか。一つひとつは小さくても、積み重なれば大きな財産になる。
水道メーターを記録していると、急に使用量が増えたときに気づける。どこかで水が漏れているかもしれない。早めに気づければ、被害も小さくて済む。記録は、過去を振り返るだけでなく、異変を知らせてくれる。
私が引き継いだとき、これがなかった。記憶のない建物を引き継ぐ大変さは、身にしみてわかっている。だからこそ、次に引き継ぐ人には、これを残したい。
コスト:Workspace一式で月1,500〜2,000円
コストの話も正直に書いておく。
個人で AppSheet を使うだけなら、無料の範囲で始められる。いきなりお金をかける必要はない。まずは無料で触ってみればいい。
私の場合は法人化していて、会社で Google のアカウントを持っている。月にして1,500円から2,000円ほど払っている。
ただ、これは AppSheet だけの値段ではない。Googleドライブも、メールも、AI(Gemini)も、全部含まれてのこの値段だ。その中で AppSheet も使える、と考えると、私の中ではすごく理にかなった値段だと思っている。AppSheet 単体でこの額がかかる、というわけではない。そこは誤解しないでほしい。
私がいなくなっても、残るものを作る
正直に言えば、この仕組みは、やっぱりまだ100点ではない。作り込む余地はいくらでもある。
それでも、私は記録を続けている。なぜなら、これは私のためだけのものではないからだ。
大家業の本当のリスク管理とは、自分がいなくなった後のことまで考えることだ。建物は残る。入居者も残る。でも、頭の中の記憶は、私がいなくなれば消える。
だから、外に出しておく。誰かが引き継げる形にしておく。それが、私がAppSheetで記録を続けている理由だ。
派手なことではない。毎日、コツコツと入力するだけだ。でも、この積み重ねが、いつか誰かを助ける。私が引き継いだとき、誰かがこれを残しておいてくれたら、どれだけ楽だっただろう。その思いが、私を続けさせている。
この記事は、築古5物件を自主管理する私自身の経験をもとに書いています。ツールの仕様・料金は2026年時点のものです。最新の情報は各サービスの公式サイトをご確認ください。



















