保証会社を一斉変更した日。建物の高齢化と、ケースワーカーと話した1年

建物が古くなってきた。入居者も、知らないうちに高齢化していた。今までの保証会社の中身では、もう足りなくなっていた。
そう感じはじめたのが、1〜2年前のことだ。私はそこから、建物全体の保証会社を一斉に変更することを決めた。
「おばあちゃんの時代」の運用は、もう通用しなかった
火災保険は、もともと加入が任意だった。何かが起きても、入居者が自分で責任を取る、というスタンスだ。
これは、おばあちゃんが大家をしていた時代までは、そのままで成立していた。当時の入居者は、契約のときに渡される書類は読み込むし、何かあっても自分で対応する力があった。大家は契約と建物の管理だけしていれば回った。
しかし、今はそうもいかない。大家自身の立場も、入居者の力も、両方が変わってきている。
たとえば、建物が古くなれば水漏れも起きる。上の部屋から下の部屋に水が落ちて、下の入居者の家財に被害が出る。原因は上の入居者だ。「弁償してください」と頼む。でも返ってくるのは「払えない」だった。
払えないと言われたら、そこからは大家が板挟みになる。下の入居者には申し訳が立たない。上の入居者を責めても何も出てこない。間に立つのは私だ。
これを何度か経験して、考えが変わった。火災保険は任意ではなく、全員に入ってもらう。それが今の建物には必要だ、と。
保証会社を一斉変更することにした
もう一つ気になっていたのが、保証会社の限界だった。
入居者が高齢化していくと、契約者本人が亡くなるという話が現実味を帯びてくる。今までの保証会社は、契約者が亡くなった瞬間に「契約者死亡につき保証は終了」となる仕組みだった。それで終わってしまうと、部屋の中の荷物の処分や、原状回復の費用は、誰が負担するのか。考えるたびに不安が増していった。
もう一つ、あのうんこまみれ事件のときに思い知った。火災保険があるかどうかで、原状回復の重さがまるで違う。190万円の見積もりを前にして、私は保険の特約に救われた。あれは入居者の側ではなく、私が建物全体に掛けていた火災保険だった。
だから、新しい保証会社は、火災保険もセットで提供しているところを選んだ。家賃保証と、火災保険。両方を一括して、建物の入居者全員に切り替えてもらう。今までバラバラだった契約を、ここで揃えることにした。
火災保険、月額1,600円。それを確認しに、区役所へ行った
新しい保証会社の火災保険は、月額1,600円という形だった。
普通、火災保険は年払いだ。1年分まとめて払う。私もそう思っていた。月額で払うという形は、愛知県ではあまり実例がないらしい。これは、後でケースワーカーさんから聞いた話だ。
そこで気になったのが、生活保護を受けている入居者の方々のことだった。
建物の入居者の中には、生活保護を受けて生活している人がいる。月額1,600円の火災保険が、生活保護費の中から出るのかどうか。これが出ない仕組みになっていたら、その人たちにだけ保険を諦めてもらうことになる。それは違う。
保証会社の話を進める前に、まずここを確認したかった。入居者に良くないことになってはいけないからだ。
区役所に足を運んだ。窓口で事情を話し、「月額1,600円の火災保険が、生活保護の費用として認められるかどうか」を確認させてもらった。
結果としては、費用としては出るとのことだった。ただし、毎月引かれた分について、入居者本人が紙で申請する必要がある。年払いなら一度で済むところが、月払いだと毎月の手続きになる。一手間ではあるけれど、費用そのものが出るならば、入居者に大きな負担はかからない。それが分かったのは、本当に助かった。
ケースワーカーさんとの1年が始まった
その区役所での確認のときに、ケースワーカーさんと初めて会った。
区役所はチーム制で、地区ごと、建物ごとに担当が決まっているらしい。私の建物に住んでいる生活保護受給者の入居者は、ほぼその一人のケースワーカーさんが担当してくれていた。複数の役所職員と話さなくても、その一人と話せば済む。大家の側から見ると、これは本当にわかりやすかった。
保証会社の一斉変更を進める間、何度も連絡を取った。入居者個別の事情、契約手続きの順序、生活保護費からの支払い方法。一つひとつ相談して、一つひとつ進めていった。

気がつけば、1年が経っていた。
「一般的に考えて、追い出したりはしないんですか」
1年の中で、特に印象に残っている出来事がある。
あのうんこまみれの事件。あれの入居者も、生活保護を受けていた方だった。
事件が起きたとき、私は最初、その入居者を追い出すつもりが全くなかった。何とか居させてあげたい。何かこの人に必要なサポートはないか。そう考えて、ケースワーカーさんに連絡した。
そのときに、ケースワーカーさんから返ってきた言葉を、今もよく覚えている。
「私がこんなことを言うのは良くないけれども、一般的に考えて、追い出したりはしないんですか」
福祉の側にいる人から、そういう言葉が出るとは思わなかった。だから余計に、ハッとさせられた。
私はずっと、入居者を追い出すような大家にはなりたくない、と思ってきた。それは今も変わらない。でも、その気持ちが先に立ちすぎると、本来は冷静に判断すべき場面でも、自分の優しさで判断が曇ることがある。
あの事件は、客観的に見れば「追い出す案件」だった。190万円の被害が出て、入居者は逮捕されて、もう連絡も取れない。それなのに、私は「居させてあげたい」と思っていた。ケースワーカーさんの一言で、それが見えるようになった。
福祉のプロが、大家の感情を整理してくれた。これは、自主管理を一人でやっていたら絶対にできない経験だった。
担当が変わった日
その人が担当を外れたことを、私は他の入居者から聞いて知った。
区役所の側から、大家に「担当が変わりました」という連絡が来ることはない。最後の関わりは、3月頃に契約の確認の電話があったくらいだ。それが終わって、気づいたら別の人になっていた。
これは、役所の効率の問題でもある。担当が変わるたびに大家全員に連絡していたら、時間がいくらあっても足りない。それは仕組みとして仕方がないことだ。私もそう理解している。
ただ、こちらは1年話してきた相手だ。何かあったらまた頼りたい、という気持ちが強くなっていた分、終わり方が静かすぎて、少し戸惑った。
新しい担当の方とは、まだ話せていない。これからも入居者の件で関わる場面は出てくるはずだから、どこかで挨拶に行けたらと思っている。1から関係を作り直すしかない。それが自主管理だ。
自主管理は、人付き合いの距離感の話
10年やってきて、最近よく思う。自主管理は、結局のところ人付き合いの仕事だ。
関わりが希薄すぎてもいけない。入居者と顔を合わせない大家は、何かあったときに頼ってもらえない。逆に、関わりが濃すぎると、それはそれで大変だ。「洗濯機が壊れた」と連絡が来て、「それは電気屋さんに行ってください」と返す場面が、本当にある。
家族みたいに何でもやってあげるのか、それとも線を引くのか。これは大家を始めるときに、ある程度自分で決めておいた方がいい。決めていないと、入居者ごとに距離感がバラバラになって、自分が苦しくなる。
今の私は、線を引いている。何でもやってあげる大家にはならない。でも、必要なところでは、ちゃんと関わる。そして、自分一人で抱えなくていいように、ケースワーカーさんや保証会社の方々のような、プロには深く頼る。入居者の方とは、適度な距離を保つ。
このバランスは、最初から分かっていたわけじゃない。1年、ケースワーカーさんと話した中で、少しずつ見えてきたものだ。
モンスターカード No.7「ローテーション魔人」

生活保護は、最後のセーフティネットだ。困っているのなら頼るべき仕組みだと、私は思っている。上の世代の方々の中には「生活保護を受けるなんて恥ずかしい」と感じる人もいる。私はそうは思わない。国の制度として用意されているのだから、必要な人は使えばいい。
その制度を支えているのは、現場のケースワーカーさんたちだ。1年関わって、それがよく分かった。
※ この記事は筆者の実体験をもとにしたものです。特定を避けるため、一部の情報を変更しています。状況によって対応は異なります。物件の管理方針は専門家にご相談ください。















