「本人じゃないとダメです」——入居者のために区役所に行ったら、門前払いされた話

大家をやっていると、入居者の生活が見えてくることがある。家賃だけじゃない。水道、電気、ゴミ出し——暮らしそのものが、こちらの目の前にある。今回は、生活保護を受けている高齢の入居者のために、水道代の減免申請をしようとした話。「助けたい」と思って区役所に行ったのに、たった一言で突き返された。その一言とは——「本人からの申請じゃないと受け付けられません」。
おばあちゃんの水道代、月3,000円
その入居者は、一人暮らしの高齢のおばあちゃんだ。
生活保護を受けていて、水道代は自分で払っている。月に3,000円くらい。そんなに使っているわけじゃない。でも年間にすれば18,000円だ。生活保護の暮らしで18,000円は大きい。
水道代には「減免措置」という制度がある。生活保護を受けている人は、申請すれば基本料金が免除される。つまり、ほとんど使っていないおばあちゃんなら、水道代がかなり軽くなる。
これを知ったとき、私は思った。「教えてあげなきゃ」と。
「面倒だからいいよ」
おばあちゃんに伝えた。
「減免措置を申請すれば、水道の基本料金を払わなくてよくなりますよ」
返ってきた言葉は、こうだった。
「面倒だからいいよ」
おばあちゃんは体が弱い。区役所まで出かけるのも大変だし、手続きの段取りを考えるだけで気が重いのだろう。気持ちはわかる。でも、年間18,000円が浮くのだ。黙って見ていられなかった。
「じゃあ、私が代わりに行ってきますよ」
そう言って、区役所に向かった。
区役所の答え:「本人じゃないとダメです」
窓口で事情を説明した。
「入居者の方が生活保護を受けていて、水道代の減免を申請したいのですが、本人が体調の関係で来られなくて——」
担当の方の答えは、あっさりしていた。
「申し訳ありませんが、本人からの申請じゃないと受け付けられません」
電話での申請はどうかと聞いた。
「本人からのお電話であれば対応できますが……」
ここで問題がある。おばあちゃんは喉を患っていて、声が出ないのだ。電話も使えない。
つまり——自分で区役所に行くこともできない、電話もできない。でも本人じゃないとダメ。完全に詰んでいた。
数ヶ月後、おばあちゃんの横から電話した
一度は引き下がった。でも、諦めたわけじゃなかった。
数ヶ月後、別の用事でおばあちゃんの部屋を訪ねる機会があった。
「今だ」と思った。
その場で区役所に電話した。
「すみません、水道代の減免措置の件でお電話しています。今、本人の横にいます。本人は喉の病気で声が出ません。代わりに私がお話ししていますが、本人確認をお願いできますか」
役所の方は、おばあちゃんの状況を把握していた。声が出ないことも記録にあったようだ。その場で本人確認の手続きを進めてくれて、減免申請が通った。
おばあちゃんは、喜んでくれた。
「本人申請主義」の壁は厚い
今回の件で痛感したのは、行政手続きの「本人申請主義」の壁だ。
制度はある。使えば助かる人もいる。でも、その制度にたどり着けない人がいる。体が動かない、声が出ない、手続きの仕方がわからない——理由はさまざまだけど、「本人じゃないとダメ」の一言で道が閉ざされてしまう。
大家としてできることは限られている。法的な代理権があるわけでもない。でも、物理的に「本人の横にいる」ことならできる。そのタイミングを待って、一緒に電話する。今回はそれでうまくいった。
タロウの学び
① 入居者が使える制度を知っておく 水道代の減免措置、NHK受信料の免除、医療費の助成——生活保護を受けている入居者が使える制度はいくつかある。大家が全部把握する必要はないけれど、「こういう制度があるらしいですよ」と伝えるだけで、入居者の暮らしが変わることがある。今日すぐできること:管理している物件の入居者で、生活保護を受けている方がいれば、水道代の減免措置を使っているか確認してみよう。
② 「本人申請」が壁になるケースを想定しておく 高齢の入居者や障害のある入居者は、自分で役所に行けないことがある。そのとき「代わりに行ってあげよう」だけでは解決しないことがある。委任状が必要か、電話で対応してもらえるか、本人の横からの連絡で通るか——手段を事前に調べておくと、いざというとき動きやすい。
③ 一度ダメでも、別のタイミングで道が開けることがある 最初に区役所で断られたとき、「もうダメだ」と思った。でも、数ヶ月後におばあちゃんの横から電話したら通った。タイミングと方法を変えれば、結果が変わることがある。諦めないことが一番大事だ。
まとめ:モンスターカード No.004「申請の門番」
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | お役所迷宮 |
| 被害 | 入居者が年間約18,000円の減免を受けられず放置 |
| 原因 | 本人申請主義の壁/高齢・身体的事情で本人が動けない |
| 対応 | 本人の横から区役所へ電話、その場で本人確認・申請完了 |
| 教訓 | 諦めずにタイミングと方法を変える/入居者が使える制度を知っておく |
「助けたい」と思ったとき、制度が壁になることがある。でも、壁の向こう側にも人がいる。こちらの事情を伝えれば、一緒に考えてくれる人がいる。大家にできることは小さいかもしれない。でも、「本人の横にいること」は、大家にしかできないことだ。
高齢の入居者を抱える大家さん、行政手続きで困った経験はありますか? 「こうやって乗り越えた」という方法があれば、ぜひコメントで教えてください。同じ立場の大家仲間の力になるはずです。
※ この記事は筆者の実体験をもとにしたものです。状況によって対応は異なります。行政手続きに関しては、お住まいの自治体の窓口にご確認ください。